落陽

様々な名曲を世に送り出してきた吉田 拓郎の楽曲の中でも、ひときわ評価が高いものの一つがこの「落陽」です。1970年代半ばにリリースされただけあって、北海道から本州に至るまでのフェリーが航行する中で水平線に陽が落ちていくという郷愁と美しさが漂う当時の情景がありありと活写されています。

青函トンネルができ、北海道新幹線が開通するなど、東京からの距離がどんどん近くなる昨今とはかけ離れた「遠さ」があるからこそ、老人と主人公の別離がより強調され、自分が無一文になったのに「相棒」だっただろうサイコロまで渡して見送ってくれる老人の温かさがより際立っているとも言えるでしょう。

どうしても大人になってくると、社会的に成功しているかどうか、お金を持っているかどうかで人の値踏みをしてしまうものですが、まったくお金もなく社会的地位もないだろう老人の思いやりはまさしく我々が忘れがちな純粋さを体現しています。

また、高度経済成長という活況の折にあって、どうしてもその波に乗り切れず、また戦前とは何もかも違う価値観の世の中に適応できず、身を賭けるものを見い出せない、だからこそ無為なギャンブルにハマる二人の浮草のような生き方が胸に染みるんですね。
メロディラインも実にワイルドで恰好良く、ブレすらシビれるほどの熱さを宿しています。
歌詞も曲自体もシンプルなので歌うこと自体は難しくありませんが、真に情感を乗せるにはかつての日本とその光と影をしっかりと理解していなければならないでしょう。
個人的には70年代を代表する傑作だと思います。